相続で分けにくい資産とは|現金・不動産・有価証券の違いを整理
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相続でもめやすい資産とは、金額を人数で割るだけでは分けられない資産のことです。現金は数字の上で公平に分けられますが、不動産や有価証券は「そのままの形」でしか価値を保てないため、人数分に割ることに向いていません。
「争うのは資産家だけ」というイメージを持たれがちですが、裁判所の統計を見るとそうとは言い切れません。この記事では、資産の種類ごとに何が分けにくさを生んでいるかを、条文と公的な統計だけで整理します。節税や資産運用、遺言の書き方には触れません。
相続には期限のある手続きも並行して進みます。相続放棄や相続税、相続登記の期限は相続手続きの期限を7日から3年の順に整理した記事で確認できます。全体の優先順位は終活でやることを緊急度別に整理した優先順位マップにまとめています。
結論
分けにくさの正体は遺産の金額ではなく、資産の性質です。現金や預貯金は数字の上で公平に割れますが、不動産や有価証券は「そのままの形」でしか価値を保てないため、人数分にきれいに分けられません。
争いが資産家だけの話でないことは統計に出ています。令和6年に家庭裁判所で認容・調停成立に至った遺産分割事件7,903件のうち、遺産の価額が1,000万円以下のものが35.6%、5,000万円以下までの累計で78.0%を占め、7,903件の72.3%に代償金を支払う定めがありました(裁判所「令和6年 司法統計年報 3 家事編」第52表)。
相続でもめやすいのはどんな資産ですか?
現金や預貯金のように金額で表せる資産は数字の上で公平に分けられますが、不動産や未上場株式のように「そのままの形」でしか価値を保てない資産は、人数分にきれいに割ることができません。分けにくさの正体は、遺産の金額の大小ではなく、資産の性質にあります。
遺産分割とは、亡くなった人の財産を相続人の間でどう分けるかを決める手続きです。民法906条は、遺産の分割について「遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」と定めています。907条1項は、共同相続人が「いつでも」協議によって遺産の全部または一部を分割できるとしています。
出典:e-Gov法令検索 民法906条、e-Gov法令検索 民法907条(いずれも2026年8月10日確認)。
相続の争いは資産家だけの話ですか?
そうとは言えません。最高裁判所の司法統計によると、令和6年に認容・調停成立に至った遺産分割事件7,903件のうち、遺産の価額が1,000万円以下だったものが2,810件(35.6%)、5,000万円以下までの累計で6,164件(78.0%)を占めています。
| 遺産の価額 | 件数 | 全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 2,810件 | 35.6% |
| 5,000万円以下 | 3,354件 | 42.4% |
| 1億円以下 | 943件 | 11.9% |
| 5億円以下 | 542件 | 6.9% |
| 5億円を超える | 49件 | 0.6% |
| 算定不能・不詳 | 205件 | 2.6% |
出典:裁判所「令和6年 司法統計年報 3 家事編」第52表(2026年8月10日確認)。

この7,903件は、家庭裁判所の調停・審判で決着した件数です。話し合いだけで解決した相続や、対立したまま動いていない相続は、この数には含まれていません。「年間7,903件しか争いがない」という意味ではなく、少なくともこれだけの件数が、金額の大きくない遺産でも家庭裁判所まで進んでいるという事実として読む必要があります。
同じ統計では、7,903件のうち5,717件(72.3%)に代償金を支払う旨の定めがあります。代償金とは、相続人の一人が遺産そのものを取得し、ほかの相続人へお金を支払う形で決着させる方法です。現物のまま人数分にきれいに割れない資産が、遺産分割の中で多くを占めていることの表れといえます。
現金・預貯金はどこまで自由に動かせますか?
現金や預貯金は金額で分けやすい資産ですが、相続人の一人が単独で全額を動かせるわけではありません。民法909条の2は、各相続人が単独で払い戻せる額を「相続開始の時の債権額の三分の一」にその相続人の法定相続分を掛けた額とし、金融機関ごとに法務省令で定める額を上限としています。
上限額は150万円です(民法第909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令・平成30年法務省令第29号)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 単独で払い戻せる額の計算式 | 相続開始時の預貯金債権額 × 3分の1 × その相続人の法定相続分 |
| 上限額 | 150万円(金融機関ごと) |
| 払い戻した分の扱い | 遺産の一部分割によって取得したものとみなされる |
出典:e-Gov法令検索 民法909条の2(2026年8月10日確認)。

上限の150万円は口座1つあたりではなく、金融機関ごとです。条文は「預貯金債権の債務者ごとに」と定めているため、複数の金融機関に口座があれば、それぞれで上限まで払い戻すことができます。「1人あたり合計150万円まで」という理解は誤りです。
もう一つ見落としやすいのが、払い戻した分の扱いです。条文は、この権利を行使した預貯金債権について「当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす」としています。先に払い戻した分がそのまま自分の取り分に上乗せされるわけではなく、あとの遺産分割協議で精算の対象になります。
実際に金融機関で払戻しの手続きを進める際に求められる書類は金融機関ごとに違います。銀行の相続手続きに必要な書類を主要5行で比較した記事で、戸籍の範囲や提出先の違いを確認できます。
不動産を共有名義のままにすると何ができなくなりますか?
相続人が複数いる場合、遺産に含まれる不動産はいったん相続人全員の共有になります。民法898条1項は「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」と定めています。共有のままだと、建物の取り壊しや大規模な改修は共有者全員の同意が必要になり、3年を超える賃貸借契約も結べません。
| 行為の例 | 必要な同意 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 取り壊し・大規模改修(著しい変更) | 共有者全員の同意 | 民法251条1項 |
| 通常の管理(著しい変更に当たらないもの) | 持分の価格の過半数 | 民法252条1項 |
| 修繕などの保存行為 | 各共有者が単独で可 | 民法252条5項 |
| 3年を超える建物の賃貸借 | 過半数では足りず、事実上全員の関与が必要 | 民法252条4項3号 |
出典:e-Gov法令検索 民法251条、e-Gov法令検索 民法252条、e-Gov法令検索 民法898条(いずれも2026年8月10日確認)。

実家が塩漬けになりやすい制度上の理由は、この3つに集約されます。第一に、取り壊しや大規模改修は「著しい変更」にあたるため共有者全員の同意が要ります(251条1項)。第二に、賃貸に出して維持費をまかなおうとしても、3年を超える建物の賃貸借は過半数の同意だけでは結べません(252条4項3号)。第三に、共有者のうち誰か1人と連絡が取れないだけで、この2つは止まります。
連絡が取れない共有者がいる場合の手当ても条文にはあります。民法251条2項・252条2項は、所在等が分からない共有者がいるとき、裁判所への請求によってほかの共有者だけで変更や管理を決められる旨の裁判を受けられると定めています。ただしこれも家庭裁判所ではなく裁判所の手続きを経る必要があり、連絡さえ取れればすぐに動けるという話ではありません。
実家をどうするかは、名義の整理と切り離せない判断です。実家を売る・貸す・解体する・そのまま持つの4択を比較した記事で、出口を決める前に確認する順番を整理しています。
有価証券(株式・投資信託)はどう扱われますか?
株式や投資信託は、現金のように1円単位で自由に分けられる資産ではなく、株数や口数という単位で管理されています。遺産分割の司法統計は、代償金の対象を「現金、預金及び有価証券等」とまとめて扱っており、遺産を換価した場合も含むと注記しています。
出典:裁判所「令和6年 司法統計年報 3 家事編」第52表(2026年8月10日確認)。

つまり有価証券は、不動産と同じように、現物のまま相続人の人数分へきれいに分けることが難しい資産として統計上も扱われており、代償金の支払いや売却(換価)によって決着するケースが一定数含まれています。特定の銘柄や商品をどう分けるか、売却のタイミングをどうするかといった個別の判断は、この記事の範囲を超えます。証券会社や税理士に確認してください。
相続税がかかるかどうかで対応は変わりますか?
相続税がかかるかどうかと、資産が分けにくいかどうかは別の問題です。相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、令和6年分の統計では、亡くなった人(被相続人)のうち相続税の申告書を提出したのは10.4%でした。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基礎控除額の計算式 | 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 |
| 令和6年分の課税割合 | 10.4%(申告書を提出した被相続人の割合) |
出典:国税庁 No.4152「相続税の課税対象となる財産」、国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(いずれも2026年8月10日確認)。

この10.4%は、申告書を提出した被相続人の割合であり、実際に納税した人の割合とは別の数字です。また、前の章で見たとおり、遺産の価額が1,000万円以下でも家庭裁判所まで争いが進んだ事例が全体の35.6%を占めています。基礎控除の範囲内かどうかは、遺産の分けやすさとはまったく別の確認事項で、申告の要否そのものの判断はこの記事では行いません。税理士に相談してください。相続を扱っている税理士に心当たりがない場合は、税理士ドットコムで相続に対応する税理士を探すといった紹介サービスから探す方法もあります。
よくある質問
遺産分割で争いが起きやすいのは高額な遺産だけですか? そうとは言えません。令和6年の司法統計では、家庭裁判所で認容・調停成立に至った遺産分割事件7,903件のうち、遺産の価額が1,000万円以下だったものが35.6%、5,000万円以下までの累計で78.0%を占めています。ただしこの件数は家庭裁判所で決着した事案に限られ、話し合いだけで解決した相続や、対立したまま動いていない相続は含まれていません。
不動産を相続人全員の共有名義のままにしておくとどうなりますか? 共有のままだと、建物の取り壊しや大規模な改修には共有者全員の同意が必要になります(民法251条1項)。また、3年を超える建物の賃貸借は、持分の過半数の同意だけでは結べません(民法252条4項3号)。共有者のうち1人と連絡が取れないだけで、これらの判断が止まってしまう点も見落とされやすいところです。
預貯金は相続人の一人が自由に引き出せますか? 全額を単独で引き出せるわけではありません。民法909条の2により、単独で払い戻せる額は「預貯金債権額×3分の1×その相続人の法定相続分」で計算され、金融機関ごとに150万円が上限です。払い戻した分は遺産の一部分割によって取得したものとみなされ、あとの遺産分割協議で精算されます。
相続税がかからなければ遺産分割で困ることはありませんか? 相続税の有無と、遺産が分けにくいかどうかは別の問題です。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算され、令和6年分では申告書を提出した被相続人は10.4%にとどまります。一方、司法統計では遺産の価額が1,000万円以下でも争いが家庭裁判所まで進んだ事例が3割超あり、基礎控除の範囲内であることは分けやすさを保証しません。
株式や投資信託も不動産のように分けにくいですか? 株式や投資信託は株数・口数という単位で管理されており、現金のように1円単位で分けられる資産ではありません。司法統計でも、代償金の対象を「現金、預金及び有価証券等」とまとめて扱い、遺産を換価した場合も含むと注記しています。不動産と同様、現物のまま人数分に分けることが難しい資産として扱われています。
まとめ
- 分けにくさの正体は遺産の金額ではなく、資産の性質にある
- 令和6年の司法統計では、認容・調停成立7,903件のうち5,000万円以下が78.0%。争いは高額資産だけの話ではない
- ただし7,903件は家庭裁判所で決着した件数で、争い全体の総数ではない
- 預貯金は民法909条の2により単独で払い戻せるが、上限は金融機関ごとに150万円で、払い戻した分はあとで精算される
- 不動産の共有名義は、取り壊し・大規模改修に全員の同意が要り、3年を超える賃貸借もできない
- 有価証券は不動産と同じく現物のまま分けにくく、代償金や換価で決着することが統計上も多い
- 相続税の申告割合(令和6年分10.4%)と、遺産の分けやすさは別の指標
本記事は一般的な制度と統計をまとめたものです。個別の判断は弁護士・司法書士・税理士など各分野の専門家にご相談ください。