成年後見と家族信託の違い|費用・できること・向き不向きを公的資料で比較
結論
すでに判断能力が低下し、本人の法律行為を支える必要があるなら、法定後見の相談が入口です。元気なうちの備えは、任意後見と家族信託を、任せたい事務・財産の範囲から比べます。
家族信託は財産の管理・処分の仕組みであり、信託だけで身上監護まで任せることはできません。本人の生活を支える契約と、お金や不動産の管理を分けて考えることが、費用比較より先です。

「家族信託」は法律用語ではなく、信託法に基づく信託のうち、家族間で行うものをこう呼ぶことがあります。成年後見と同じことを、家族だけで代わりに行う制度という意味ではありません。
介護サービスの契約、財産管理、住まいの処分を、誰がどの根拠で担うのかを整理していきます。銀行の代理出金や口座の制限は、親が認知症になったときの銀行口座の扱いに分けてまとめています。
成年後見とは、どのような制度ですか?
成年後見制度とは、判断能力が不十分な人の生活や財産に関する法律行為を支える制度です。家庭裁判所の審判による法定後見と、将来に備えて契約する任意後見を区別するところから始めます。
法定後見の入口は、何で分かれますか?
法定後見には後見・保佐・補助があり、判断能力の程度で入口が分かれます。条文の判断能力に関する部分を抜き出すと、次の違いがあります。
後見:民法7条
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者
保佐:民法11条
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者
補助:民法15条1項
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者
出典:e-Gov 民法7条、民法11条、民法15条(2026年9月17日確認)。
どの類型に当たるかを決めるのは家庭裁判所です。家族が費用から選ぶのではなく、本人がどの契約や財産管理で困っているかを整理して相談します。
任意後見は、契約した日から始まりますか?
任意後見契約の効力が生じるのは、任意後見監督人が選任された時です。契約を結ぶ段階と、効力が生じる段階は分かれています。
任意後見契約に関する法律2条1号は、精神上の障害により判断能力が不十分な状況での生活・療養看護・財産管理の事務を委託し、その事務について代理権を与える契約を定めています。同法3条は、法務省令で定める様式の公正証書による契約を求めています。
出典:e-Gov 任意後見契約に関する法律2条、同法3条(2026年9月17日確認)。
家族信託とは、何を任せる仕組みですか?
家族信託とは、家族間で財産を託し、決めた目的に沿って管理・処分してもらう信託の呼び方です。ここでは、信託法3条1号の信託契約による形を中心に比べます。
同号が定めるのは、財産を譲渡するなどの処分と、一定の目的に沿った管理・処分等を行う約束を組み合わせた契約です。単に「親のお金のことは子に任せる」と口頭で役割を決める話ではなく、財産の名義が動くことを含む仕組みとして捉えます。
受託者が扱えるのは、信託の目的と対象財産の範囲に入ることです。家族信託という名称だけで、本人の財産や契約をすべて扱えるわけではありません。何を管理対象にするかと、その財産で何を実現したいかを、組み合わせて考える必要があります。
出典:e-Gov 信託法3条1号(2026年9月17日確認)。
できること・できないことは、どこが違いますか?
大きな違いは、本人の生活を支える法律行為まで扱うのか、信託した財産の管理・処分を扱うのかです。次の表は、法定後見のうち「後見」と、契約型の家族信託を比べています。
| 比べる点 | 後見 | 家族信託 |
|---|---|---|
| 財産の管理 | 本人の財産管理に関する事務を担う | 信託の目的に沿い、対象財産を管理・処分する |
| 生活を支える契約 | 介護サービスの契約などを代理し、本人の意思と状態に配慮する | 信託契約だけでは、本人の代理や身上監護の権限は生じない |
| 住まいの処分 | 本人の居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が必要 | 対象財産と目的の範囲に沿って検討する。財産を自由に処分できるという意味ではない |
出典:e-Gov 民法858条、民法859条の3、信託法3条(2026年9月17日確認)。
身上監護は、介護そのものをすることですか?
介護そのものをすることではありません。介護サービスの契約など、本人の生活や療養を支える法律行為を行い、その際に本人の意思や状態に配慮することです。
民法858条は、生活・療養看護・財産管理に関する事務で、本人の意思を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮する義務を定めています。
同じ「介護の準備」でも、費用をどの財産から支出するかという問題と、サービスの契約を誰が本人に代わって行うかという問題は別です。信託の相談で前者を整理できても、後者の権限まで一緒に得られるという説明にはなりません。
後見人なら、実家を自由に売れますか?
成年被後見人の居住用不動産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要です。民法859条の3は、対象と行為を次のように定めています。
成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
出典:e-Gov 民法859条の3(2026年9月17日確認)。
対象は本人の居住の用に供する建物や敷地で、売却だけを取り上げた規定ではありません。家族で住まいの扱いを話すときも、「売るかどうか」と「本人に代わって処分するための手続き」を分けて整理します。
費用はどう違いますか?
公的な手数料と、個別に決まる報酬を分けて比べます。開始時に払う印紙・切手の額を、制度利用の総額と読み替えないことがポイントです。
家庭裁判所へ納める費用はいくらですか?
以下は東京家庭裁判所の一覧に載っている申立手数料・登記嘱託用の収入印紙・郵便切手です。東京家裁の例であり、申立先の家庭裁判所が示す額・切手の内訳に照らして準備します。
| 東京家裁の手続き | 申立印紙 | 登記嘱託用印紙 | 切手 |
|---|---|---|---|
| 後見開始 | 800円 | 2,600円 | 4,000円 |
| 保佐・補助の開始申立て | 800円 | 2,600円 | 5,000円 |
| 任意後見監督人の選任 | 800円 | 1,400円 | 4,000円 |
出典:東京家庭裁判所「後見関係事件等の予納収入印紙・郵便切手一覧」(2024年10月1日改訂、2026年9月17日確認)。
保佐・補助の行は、開始申立ての額です。代理権付与などを併せて申し立てる場合の追加分を含めた表ではありません。任意後見の行も監督人選任時の費用であり、その前に行う公正証書による契約の費用とは別です。
印紙と切手は使い道が違います。東京家裁の手引も、合算して購入しないよう注意を促しています。また、申立後に鑑定を実施することになったときは、別途、費用の予納について連絡するという案内です。表の額だけを用意すれば費用がすべて済む、という読み方は避けます。
出典:東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」(2025年4月版、2026年9月17日確認)。
後見人の報酬は、毎月の定額ですか?
後見人の報酬は家庭裁判所が事案ごとに決めるもので、一律の月額料金ではありません。民法862条は、後見人と被後見人の資力その他の事情によって、本人の財産から相当な報酬を与えられると定めています。
出典:e-Gov 民法862条(2026年9月17日確認)。
家族信託の公正証書は、いくらですか?
公正証書にする場合の手数料は、公証人手数料令9条の「法律行為の目的の価額」に応じた表が基本です。日本公証人連合会が掲載する、2025年10月1日施行の改正後の額の一部を示します。
| 目的の価額 | 基本手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超・100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超・200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超・500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超・1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超・3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超・5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超・1億円以下 | 49,000円 |
出典:e-Gov 公証人手数料令9条、日本公証人連合会「公証人手数料」(2025年10月1日施行の改正後、2026年9月17日確認)。
これは家族信託の総額ではありません。目的の価額の算定には公証人の判断が入るため、具体的な額は公証役場で見積もりを取ります。財産の金額を表に当てはめただけでは、費用全体は決まりません。
遺言も公正証書を用いる場面がありますが、信託契約とは別の法律行為です。遺言書の方式と公正証書遺言の費用の考え方は、遺言も併せて整理したいときの参照先です。

手続きは、どの順に進めますか?
法定後見は家庭裁判所への申立て、任意後見と契約型の家族信託は契約内容の整理が入口です。同じ順番で進む制度ではないので、相談時に使う大まかな流れを分けて示します。
法定後見の申立てでは、何から始めますか?
申立先の家庭裁判所の手引を入手し、書類と費用を揃える流れから確認します。家族が独自に作った必要書類リストだけで進めず、その裁判所の案内を起点にします。
- 本人が困っている事務や財産管理の状況を整理する。
- 申立先の家庭裁判所の手引に沿って、書類と費用を準備する。
- 家庭裁判所へ申し立て、審判・選任の手続きへ進む。
必要書類は家庭裁判所ごとに異なるため、ここで網羅した一覧は作りません。どの類型に当たるか、誰が選任されるかは家庭裁判所の判断です。
出典:東京家庭裁判所「後見・保佐・補助開始申立ての手引」(2025年4月版、2026年9月17日確認)。
任意後見と家族信託は、公正証書を作れば同じですか?
同じではありません。任意後見は公正証書による契約が必要ですが、信託法3条1号の信託契約は、条文上、公正証書を必須としていません。
任意後見は、将来任せたい事務と代理権の範囲を整理して公正証書で契約します。その後、任意後見監督人が選任された時から契約の効力が生じます。
契約型の家族信託は、目的・対象財産・受託者・任せる管理や処分の内容を整理し、契約を組み立てます。公正証書にするなら公証役場へ手数料の見積もりを依頼し、不動産を信託する場合の信託登記は司法書士に相談します。
亡くなった人の不動産を相続した後の名義変更を調べているなら、相続登記の義務化と申請期限の整理が別の入口です。生前の財産管理の相談と、相続による登記の相談を混ぜないようにします。

向き不向きは、何を基準に整理しますか?
費用の安さではなく、本人の現状・任せたい事務・対象財産から整理します。次は当サイトが相談の準備用にまとめた観点であり、公的機関による制度の推奨表ではありません。
すでに困っている事務と、将来の希望を分けられていますか?
すでに契約や財産管理で支援が必要な状況なら、法定後見の手続きについて家庭裁判所へ相談する入口になります。本人が元気なうちに将来の管理を決めたいなら、任意後見や家族信託で何を任せるのかを整理する段階です。
「親のお金が心配」だけで終わらせず、いま困っていることと、将来に備えたいことを別々に書きます。たとえば、契約を支える人が必要なのか、特定の財産の管理方法を決めたいのかでは、相談の中心が変わります。契約できるかどうかや具体的な制度の選択は、本人の状況を伝えて弁護士・司法書士に相談します。
任せたいのは、財産の管理ですか、生活を支える契約ですか?
信託に託したい財産の範囲だけでなく、その外に残る事務を書き出します。信託の設計で財産管理を整理しても、本人に代わる介護サービスの契約などの論点まで消えるわけではありません。
反対に、後見の相談でも、家族が本人の住まいを自由に処分できることを前提にはできません。両者には重なる部分と重ならない部分があり、「家族信託を作れば後見は不要」「どちらか一方を選べばすべて済む」という比べ方を避けます。
相談用のメモは、次の項目を分けると書きやすくなります。
- 本人の意向:誰に何を任せたいか、どんな生活を続けたいか。
- 現在の困りごと:どの契約や財産管理に支援が必要か。
- 財産と目的:何を管理対象に考え、何のために使いたいか。
- 残る仕事:財産管理とは別に、生活を支える契約として何があるか。
これは申立書や信託契約書のひな形ではなく、相談内容を整理するメモです。本人の希望や財産の所在を書き出す段階では、エンディングノートに書く項目と遺言書との役割分担も参考になります。
見積もりでは、何を分けて聞きますか?
公的手数料、依頼する専門家の業務範囲、その後に残る手続きを分けて聞きます。申立てだけの額と、契約の相談から作成までを含む額は、そのまま横並びにできません。
「何の作業への支払いか」「どこまで含むか」を揃えて比べ、税務の扱いは税理士・税務署への相談に分けます。
よくある質問
子どもでも法定後見を申し立てられますか?
民法7条・11条・15条は、本人・配偶者・四親等内の親族などを申立てできる人として挙げており、子はこの親族の範囲に含まれます。補助について本人以外が申し立てるときは、民法15条2項により本人の同意が必要です。
任意後見受任者と任意後見人は、同じ呼び名ですか?
任意後見契約に関する法律2条は、任意後見監督人が選任される前の受任者を任意後見受任者、選任された後の受任者を任意後見人と呼び分けています。書類でどちらの語が使われているかを見ると、契約後のどの段階を示しているかを読み分けられます。
信託は、家族との契約以外でも作れますか?
信託法3条には、契約を結ぶ方法のほか、遺言による方法、自ら財産の管理等を行う旨の意思表示による方法が定められています。最後の方法は、公正証書その他の書面又は電磁的記録に、法定の事項を記載・記録して行います。家族信託の比較で扱った契約型は、そのうち同条1号の方法です。
公正証書を役場の外で作るときは、どんな費用が加わりますか?
日本公証人連合会の手数料表は、役場外執務の日当を20,000円、4時間以内なら10,000円とし、交通費の実費も別に示しています。公正証書の作成手数料とは分け、役場外での対応を相談する段階で見積もりに含めてもらいます。
出典:日本公証人連合会「公証人手数料」(2025年10月1日施行の改正後、2026年9月17日確認)。FAQの法令は末尾の該当条文を参照。
まとめ
- 法定後見は判断能力低下後の支援、任意後見は将来の事務を代理してもらう備え。家族信託は目的と対象財産を決める財産管理の仕組みです。
- 信託だけで身上監護まで任せることはできず、成年後見人による居住用不動産の処分にも家庭裁判所の許可が必要です。
- 公的手数料と個別に決まる報酬を分け、本人の状況・任せたい事務・対象財産を整理して相談します。
出典
- e-Gov 民法7条・11条・15条:法定後見の類型・申立人・補助における本人の同意(2026年9月17日確認)
- e-Gov 民法858条・859条の3・862条:身上の配慮・居住用不動産の処分・報酬(2026年9月17日確認)
- e-Gov 任意後見契約に関する法律2条・3条:定義・効力発生・公正証書の方式(2026年9月17日確認)
- e-Gov 信託法3条:信託の方法(2026年9月17日確認)
- e-Gov 公証人手数料令9条:法律行為に係る公正証書の作成手数料(2026年9月17日確認)