老人ホームの費用が「月額◯万円」で決まらない理由|特養の食費・居住費と介護の負担限度額
親の施設を調べ始めて最初に戸惑うのが、費用の書き方がサイトごとにばらばらなことだと思います。ひと月の目安として書かれている金額が、記事によって何倍も違う。どちらも間違っているようには見えないのに、根拠がどこにも示されていない。
理由ははっきりしています。老人ホームと呼ばれているものは根拠になる法律が違う複数の施設の総称で、そのうえ費用が何本かの別建てで積み上がる仕組みになっているからです。この記事では、事業者が公表している相場表を使わず、厚生労働省が公表している額と、老人福祉法・介護保険法・高齢者住まい法の条文だけで、その積み上がり方を組み立て直します。
結論
老人ホームの費用をひとつの月額で言い切れないのは、次の3つが重なっているためです。
**①「老人ホーム」は根拠法の違う施設の総称です。**特別養護老人ホーム(特養)・介護老人保健施設(老健)・介護医療院は介護保険法が定める介護保険施設で、有料老人ホームは老人福祉法、サービス付き高齢者向け住宅は高齢者住まい法が根拠です。行政の関与も許可・届出・登録と3段階に分かれます。
②介護保険が1〜3割にしてくれるのは介護サービス費だけです。厚生労働省は、介護保険施設を利用する場合は自己負担のほかに居住費・食費・日常生活費の負担も必要になると明記しています。
**③公的な実額が出ているのは、介護保険施設の食費・居住費だけです。**厚生労働省は基準費用額として、食費1日1,445円、ユニット型個室の居住費1日2,066円などを示しています(2026年8月13日時点の公表値)。所得や資産が一定以下の方は、市区町村に申請して負担限度額認定を受けることでこの額が下がります。
一方、有料老人ホームの入居一時金や月額の相場については、本記事が確認できた範囲に公的な統計がありません。書けるのは、権利金の受領禁止や前払金の返還といった法令上の縛りまでです。
金額の出典は厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(2026年8月13日確認)です。


老人ホームの費用は、なぜ月額で言い切れないのですか?
費用が1本ではなく、性質の違う複数の負担が重なっているからです。介護保険施設の場合、厚生労働省は次のように説明しています。
介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、介護サービスにかかった費用の1割(一定以上所得者の場合は2割又は3割)です。
介護保険施設利用の場合は、費用の1割(略)負担のほかに、居住費、食費、日常生活費の負担も必要になります。
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(2026年8月13日確認)。
つまり、施設に入って毎月払うものは少なくとも4本に分かれます。介護サービス費の自己負担、居住費、食費、そして日常生活費です。このうち介護保険が1〜3割に軽くしてくれるのは最初の1本だけで、残りは別勘定になります。
さらに、どの施設に入るかで前提そのものが変わります。特養・老健・介護医療院であれば、食費と居住費に国が定めた基準費用額があります。有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の家賃・食費については、本記事が参照した厚生労働省のページに同じような基準額は示されていません。事業者と交わす契約で決まる部分が大きいということです。
「月◯万円」という数字を見かけたときは、それが4本のうちどれを足したものなのか、そしてどの種類の施設の話なのかを確かめてください。同じ数字でも、含んでいるものが違えば比べる意味がありません。

「老人ホーム」と呼ばれる施設は、何種類ありますか?
通称でひとまとめにされていますが、根拠になる法律で切ると5つに分かれます。
| 通称 | 法令上の名称 | 根拠になる条文 | 行政の関わり方 |
|---|---|---|---|
| 特養 | 特別養護老人ホーム(介護保険法上は介護老人福祉施設) | 老人福祉法20条の5、介護保険法8条27項 | 介護保険法上は、入所定員が30人以上の特別養護老人ホームであることが要件 |
| 老健 | 介護老人保健施設 | 介護保険法8条28項 | 介護保険法94条1項の都道府県知事の許可 |
| 介護医療院 | 介護医療院 | 介護保険法8条29項 | 介護保険法107条1項の都道府県知事の許可 |
| 有料老人ホーム | 有料老人ホーム | 老人福祉法29条1項 | 都道府県知事への事前の届出 |
| サ高住 | サービス付き高齢者向け住宅 | 高齢者の居住の安定確保に関する法律5条 | 都道府県知事の登録を受けることができる(登録は5年ごとに更新) |
出典:e-Gov法令検索 老人福祉法20条の5、同29条、介護保険法8条、高齢者の居住の安定確保に関する法律5条(いずれも2026年8月13日確認)。
条文を並べると、費用を読むうえで効いてくる違いが3つ見えてきます。
**1つめは、介護保険施設かどうかです。**介護保険法8条は、特養(介護老人福祉施設)・老健・介護医療院の3つを介護保険施設として定義しています。有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅はここに入りません。前者は「介護の施設」、後者は「住まい」という出発点の違いがあり、費用の建て方もそこから分かれます。
2つめは、行政の関与の強さです。老健と介護医療院は都道府県知事の許可、有料老人ホームは届出、サービス付き高齢者向け住宅は登録を受けることができるという書き方です。登録は義務ではなく、しかも5年ごとに更新を受けなければ期間の経過によって効力を失うと条文に書かれています。
3つめは、サ高住と有料老人ホームが排他ではないことです。高齢者住まい法5条は、登録の対象を「高齢者向けの賃貸住宅又は(略)有料老人ホーム」としています。つまり有料老人ホームがサ高住として登録されている場合があります。「サ高住にするか有料老人ホームにするか」という二択で説明している記事を見かけますが、法律の建て付けとしてはその二択になっていません。

「介護付き」「住宅型」は法律の言葉ではありません
パンフレットでよく見る「介護付き」「住宅型」という呼び分けは、条文には出てきません。条文の側にあるのは特定施設入居者生活介護という介護保険のサービス名です。介護保険法8条11項は、特定施設を「有料老人ホームその他厚生労働省令で定める施設」とし、そこに入居している要介護者に計画に基づいて行われる入浴・排せつ・食事等の介護や機能訓練、療養上の世話を特定施設入居者生活介護と定義しています。入居定員29人以下の介護専用型の場合は、8条21項の地域密着型特定施設入居者生活介護になります。
出典:e-Gov法令検索 介護保険法8条(2026年8月13日確認)。
呼び名そのものの表示ルールについては本記事では扱いません。確認できるのは、その施設が特定施設入居者生活介護の指定を受けているかどうかという制度上の事実までです。パンフレットの呼び名ではなく、そこを施設に聞いてください。
介護保険で1〜3割負担になるのは、どの費用ですか?
介護サービスにかかった費用だけです。厚生労働省は「仮に1万円分のサービスを利用した場合に支払う費用は、1千円(2割の場合は2千円)」という例で説明しています。割合は所得によって1割・2割・3割に分かれます。
ここで押さえておきたいのは、この割合が効く範囲です。施設に入っているあいだに発生する居住費・食費・日常生活費は、この1〜3割の外側にあります。厚生労働省の同じページが、施設利用の場合は自己負担の「ほかに」これらの負担も必要になる、と書いているとおりです。
なお、自宅で介護サービスを使う居宅サービスの場合は、利用できるサービスの量に支給限度額が要介護度別に定められています。施設に入る話と自宅で使う話は、費用の枠組みそのものが違うということです。
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(2026年8月13日確認)。

親が倒れてから施設を考え始めるまでの流れ全体は、入院・仕事の調整・きょうだいの分担を順番に並べた「親が倒れたら」のチェックリストにまとめています。介護保険の相談窓口である地域包括支援センターへ、いつ連絡するかもそちらで扱っています。
特別養護老人ホームの食費と居住費は、いくらですか?
国が基準費用額という額を定めています。食費は1日1,445円、居住費はユニット型個室で1日2,066円です。所得や資産が一定以下の方については、段階ごとに定められた負担限度額まで下がります。
| 区分 | 基準費用額(日額) | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階① | 第3段階② |
|---|---|---|---|---|---|
| 食費 | 1,445円 | 300円 | 390円 | 650円 | 1,360円 |
| 居住費:ユニット型個室 | 2,066円 | 880円 | 880円 | 1,370円 | 1,370円 |
| 居住費:ユニット型個室的多床室 | 1,728円 | 550円 | 550円 | 1,370円 | 1,370円 |
| 居住費:従来型個室 | 1,231円 | 380円 | 480円 | 880円 | 880円 |
| 居住費:多床室 | 915円 | 0円 | 430円 | 430円 | 430円 |
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(2026年8月13日時点の公表値・2026年8月13日確認)。上の額は介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)と短期入所生活介護についての表から、施設入所の場合の負担限度額を抜き出したものです。同じ表には短期入所(ショートステイ)の場合の食費の負担限度額が別に示されており、上の額とは異なります。
この表で読み取ってほしいのは、部屋のつくりで居住費が2倍以上変わることです。ユニット型個室の2,066円に対し、多床室は915円。1日あたりの差が1,000円を超えるので、ひと月では3万円台の差になります。
そして、この額は改定されます。記事や資料で金額を見たときは、必ずいつ時点の額なのかを確かめてください。この記事の額は2026年8月13日時点で厚生労働省が公表していたものです。


老健や介護医療院では、金額が違いますか?
違います。厚生労働省は介護老人保健施設・介護医療院・短期入所療養介護について別の表を出しており、従来型個室と多床室の額が特養とは一致しません。
| 区分 | 基準費用額(日額) | 第1段階 | 第2段階 | 第3段階① | 第3段階② |
|---|---|---|---|---|---|
| 食費 | 1,445円 | 300円 | 390円 | 650円 | 1,360円 |
| 居住費:ユニット型個室 | 2,066円 | 880円 | 880円 | 1,370円 | 1,370円 |
| 居住費:ユニット型個室的多床室 | 1,728円 | 550円 | 550円 | 1,370円 | 1,370円 |
| 居住費:従来型個室 | 1,728円 | 550円 | 550円 | 1,370円 | 1,370円 |
| 居住費:多床室(室料を徴収する場合) | 697円 | 0円 | 430円 | 430円 | 430円 |
| 居住費:多床室(室料を徴収しない場合) | 437円 | 0円 | 430円 | 430円 | 430円 |
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(2026年8月13日時点の公表値・2026年8月13日確認)。
特養の従来型個室が1,231円なのに対し、老健・介護医療院では1,728円です。同じ「従来型個室」という言葉でも額が違うので、2つの施設の見積書を並べるときは、部屋のつくりの名前だけで揃えて比べないでください。多床室に室料を徴収する場合としない場合の2本立てがあるのも、この表の特徴です。

負担限度額認定を受けると、いくらまで下がりますか?
上の2つの表の第1段階から第3段階②までが、その下がった後の額です。この軽減の制度は特定入所者介護サービス費(補足給付)といいます。厚生労働省の説明は次のとおりです。
介護保険施設入所者等の人で、所得や資産等が一定以下の方に対して、負担限度額を超えた居住費と食費の負担額が介護保険から支給されます。
なお、特定入所者介護サービス費の利用には、負担限度額認定を受ける必要がありますのでお住まいの市区町村に申請をしてください。
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(2026年8月13日確認)。
要点は2つです。ひとつは、自動では適用されないこと。市区町村への申請が要ります。もうひとつは、判定に所得だけでなく預貯金額も見ること(夫婦の場合の額を含みます)。生活保護を受給している方等が該当する第1段階については、預貯金額の要件はないとされています。
段階ごとの預貯金額の基準は、本記事では扱いません。金額の要件は市区町村の案内で確かめてください。窓口は、住民票のある市区町村の介護保険担当課です。

月々の自己負担に、上限はありますか?
介護サービス費についてはあります。高額介護サービス費という制度で、月々の利用者負担額の合計が所得に応じた上限額を超えた場合、超えた分が介護保険から支給されます。
ただし、厚生労働省の説明には重要な括弧書きが付いています。上限の計算に入る「月々の利用者負担額」は福祉用具購入費や食費・居住費等一部を除くもの、という書き方です。食費と居住費はこの上限の外側にあるということで、ここを読み落とすと施設の費用を実際より軽く見積もることになります。
| 区分 | 対象になる方 | 負担の上限額(月額) |
|---|---|---|
| 第1段階① | 生活保護を受給している方等 | 15,000円(個人) |
| 第1段階② | 15,000円への減額により生活保護の被保護者とならない場合 | 15,000円(世帯) |
| 第1段階③ | 市町村民税世帯非課税の老齢福祉年金受給者 | 世帯24,600円/個人15,000円 |
| 第2段階 | 市町村民税世帯非課税で、公的年金等収入金額とその他の合計所得金額の合計が80.9万円以下の方 | 世帯24,600円/個人15,000円 |
| 第3段階 | 市町村民税世帯非課税で、第1段階・第2段階に該当しない方 | 24,600円(世帯) |
| 第4段階① | 市区町村民税課税世帯で、課税所得380万円(年収約770万円)未満の方 | 44,400円(世帯) |
| 第4段階② | 課税所得380万円以上690万円(年収約1,160万円)未満の方 | 93,000円(世帯) |
| 第4段階③ | 課税所得690万円以上の方 | 140,100円(世帯) |
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(2026年8月13日確認)。
厚生労働省は「世帯」について、住民基本台帳上の世帯員で介護サービスを利用した方全員の負担の合計の上限額だと注記しています。第4段階の課税所得による判定は、同一世帯内の65歳以上の方の課税所得で行うとされています。
この制度も、支給を受けるには市区町村への申請が要ります。関連して、医療費と介護費を合わせて見る高額医療・高額介護合算制度もあり、こちらは決められた年額の限度額を500円以上超えた場合に、医療保険者へ申請すると超えた分が支給されるとされています。

1日あたりの額から、月額はどう見積もりますか?
日額に日数を掛けます。ただし、これはこの記事で行った計算であって、厚生労働省が月額として公表している数字ではありません。式を書いておきます。
- 特養のユニット型個室・負担限度額の認定を受けていない場合:食費1,445円+居住費2,066円=1日3,511円。3,511円×30日=105,330円
- 特養の多床室・同じ条件:食費1,445円+居住費915円=1日2,360円。2,360円×30日=70,800円
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」(2026年8月13日時点の公表値・2026年8月13日確認)。
この2つの数字に介護サービス費の自己負担と日常生活費は入っていません。月の日数によっても変わります。使いどころは「支払総額の目安」ではなく、部屋のつくりで居住費がどれくらい動くかを掴むことだと考えてください。

見積書を受け取ったら、この式に載っている食費・居住費と、介護サービス費の自己負担、日常生活費が、それぞれどの行に書かれているかを分けて確認してください。合計だけを見比べても、何が高いのかは分かりません。
有料老人ホームの入居一時金には、決まりがありますか?
金額の相場については、本記事が確認できた範囲に公的な統計がありません。施設と地域によって幅が大きく、事業者ごとの公表額しか手がかりがないため、この記事では相場の数字を書きません。
一方で、お金の受け取り方と返し方については法令にはっきりした縛りがあります。ここは条文で読めます。
| 項目 | 根拠になる条文 | 条文が定めていること |
|---|---|---|
| 権利金の受領禁止 | 老人福祉法29条8項 | 家賃、敷金及び介護等その他の日常生活上必要な便宜の供与の対価として受領する費用を除くほか、権利金その他の金品を受領してはならない |
| 前払金の算定基礎の明示と保全措置 | 老人福祉法29条9項 | 終身にわたって受領すべき家賃等の全部又は一部を前払金として一括して受領する設置者は、前払金の算定の基礎を書面で明示し、返還債務を負うこととなる場合に備えて必要な保全措置を講じなければならない |
| 保全措置の中身 | 老人福祉法施行規則20条の10 | 一時金に係る銀行の債務の保証その他の厚生労働大臣が定める措置 |
| 「前払金」に含まれるもの | 老人福祉法施行規則20条の9 | 入居一時金、介護一時金、協力金、管理費、入会金その他いかなる名称であるかを問わず対価として収受する全ての費用。敷金(家賃の六月分に相当する額を上限とする)として収受するものは除く |
| 短期の解約・入居者の死亡による終了 | 老人福祉法29条10項 | 厚生労働省令で定める一定の期間を経過する日までの間に契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合に、算定される額を控除した額に相当する額を返還する旨の契約を締結しなければならない |
| その「一定の期間」 | 老人福祉法施行規則21条1項1号 | 入居者の入居後、三月が経過するまでの間に契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合にあつては、三月 |
| 控除する額の計算方法 | 老人福祉法施行規則21条2項1号 | 家賃等の月額を三十で除した額に、入居の日から起算して契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した日までの日数を乗ずる方法 |
出典:e-Gov法令検索 老人福祉法29条、e-Gov法令検索 老人福祉法施行規則(いずれも2026年8月13日確認)。
とくに知っておきたいのは、入居者が亡くなって契約が終わった場合も返還のルールの対象になることです。29条10項は「契約が解除され、又は入居者の死亡により終了した場合」と書き分けています。入居してまもなく看取ることになった、という場面がまさにこの条文の射程です。
もうひとつ。この期間は、事業者や情報サイトでは「90日ルール」と呼ばれることがありますが、**省令の文言は「三月」**です。日数ではなく月で書かれているので、記事や説明を突き合わせるときは、法令の言葉としては3か月であることを前提にしてください。
そして、ここに書けるのは法令が定めている枠組みまでです。個別の契約でいくら戻るかは、その契約書の返還規定と、前払金の算定の基礎、保全措置の内容によって決まります。契約前に、この3つが書面でどう書かれているかを必ず確かめてください。


施設の情報は、どこで調べられますか?
有料老人ホームについては、都道府県が公表する仕組みが法律で決まっています。老人福祉法29条11項は設置者に有料老人ホーム情報を都道府県知事へ報告する義務を課し(施行規則21条の3で1年に1回以上)、29条12項は「都道府県知事は(略)報告された事項を公表しなければならない」と定めています。
公表の仕方も省令に書かれています。施行規則21条の4は、利用者が有料老人ホームの選択に必要な情報を容易に抽出し、適切に比較したうえで選択することを支援するため、インターネットの利用その他適切な方法により公表するとしています。つまり、比較できる形で出すことが前提になっている公的な情報源があるということです。
さらに29条7項は、設置者が入居者や入居しようとする者に対して介護等の内容などに関する情報を開示しなければならないと定めており、施行規則20条の7はこれを書面により交付するものとしています。都道府県知事は違反等に対して改善命令や事業の制限・停止命令ができ、命令をしたときは公示しなければならないとされています(29条15項から17項)。
出典:e-Gov法令検索 老人福祉法29条、e-Gov法令検索 老人福祉法施行規則(いずれも2026年8月13日確認)。
介護保険のサービスの側は、厚生労働省が運営する介護サービス情報公表システムで、事業所・施設の情報を地域から探せます。この記事で使った基準費用額や高額介護サービス費の説明も、同じシステムの解説ページに載っているものです。
なお、老人福祉法29条5項には、市町村長が届出をしていない疑いのある有料老人ホームを発見したときは都道府県知事に通知するよう努める、という規定があります。届出のない施設が存在しうることを前提にした条文があるということなので、パンフレットだけで判断せず、都道府県が公表している情報に載っているかどうかを見てください。件数については本記事では扱いません。

入居の相談や施設探しには、どんな選択肢がありますか?
大きく3つに分かれます。どれを使う場合でも、医療や介護の必要度そのものの判断は専門職の領域です。この記事は制度の地図までで、どの種類が向いているかという当てはめはしません。
**1つめは公的な相談窓口です。**地域包括支援センター、担当のケアマネジャー、市区町村の介護保険担当窓口。負担限度額認定と高額介護サービス費の申請先も市区町村なので、費用の話をまとめて持ち込める先でもあります。
**2つめは自分で調べる方法です。**都道府県が公表している有料老人ホーム情報(老人福祉法29条12項)と、厚生労働省の介護サービス情報公表システム。この2つは、事業者側が作った資料ではないという点で、比較の出発点に向いています。
**3つめは民間の紹介サービスです。**施設探しの相談や見学の手配を行う事業者があります。紹介の仕組みや、費用を誰が負担するのか(施設側か、相談する側か)は事業者によって違うため、相談を始める前にそこを聞いてください。本記事では、特定の事業者を推奨も否定もしません。
親が施設に入ると、実家が空き家になることがあります。施設の費用とは別に、そちらにも固定資産税や管理の費用が続きます。金額の目安は空き家のまま実家を持ち続けた場合の固定資産税と管理費用に、売る・貸す・解体する・そのまま持つの決め方は実家じまいの進め方と判断の順番にまとめています。施設の費用の話と混ぜず、別立てで見ておくと判断が整理しやすくなります。

よくある質問
老人ホームの費用は、月にいくらかかりますか? ひとつの金額では答えられません。施設の種類によって根拠になる法律が違い、費用も介護サービス費の自己負担・居住費・食費・日常生活費に分かれるためです。厚生労働省が実額を示しているのは介護保険施設の食費と居住費の基準費用額で、食費は1日1,445円、ユニット型個室の居住費は1日2,066円です(2026年8月13日時点の公表値)。有料老人ホームの月額や入居一時金については、本記事が確認できた範囲に公的な統計がありません。
特別養護老人ホームと有料老人ホームは、何が違いますか? 根拠になる法律が違います。特別養護老人ホームは老人福祉法20条の5に定めがあり、介護保険法8条27項では介護老人福祉施設として介護保険施設に位置づけられています。有料老人ホームは老人福祉法29条1項が定める施設で、設置には都道府県知事への事前の届出が必要です。費用の面では、介護保険施設には食費・居住費の基準費用額が示されているのに対し、有料老人ホームの家賃・食費について同じような公的な基準額は、本記事が参照した厚生労働省のページには示されていません。
負担限度額認定は、申請しなくても適用されますか? されません。厚生労働省は、特定入所者介護サービス費の利用には負担限度額認定を受ける必要があるため、住んでいる市区町村に申請するよう案内しています。判定には所得のほか預貯金額(夫婦の場合の額を含みます)も見るとされており、生活保護を受給している方等が該当する第1段階については預貯金額の要件はないとされています。段階ごとの預貯金額の基準は市区町村の案内で確かめてください。
高額介護サービス費の上限額を超えれば、食費や居住費も戻ってきますか? 戻りません。厚生労働省の説明では、上限額の計算の対象になる月々の利用者負担額は「福祉用具購入費や食費・居住費等一部を除く」ものとされています。食費と居住費はこの上限の外側にあるため、施設の支払いを見積もるときは、上限額とは別に足して考えてください。支給を受けるには市区町村への申請が必要です。
入居してすぐに亡くなった場合、前払金は返ってきますか? 老人福祉法29条10項は、前払金を受領する場合、一定の期間を経過する日までに契約が解除され、又は入居者の死亡により終了したときは、算定される額を控除した額を返還する旨の契約を締結しなければならないと定めています。その期間について老人福祉法施行規則21条1項1号は「三月」としており、控除する額は同21条2項1号で、家賃等の月額を三十で除した額に入居日から終了日までの日数を乗ずる方法とされています。実際にいくら戻るかは個別の契約書の返還規定によるため、契約前に書面で確認し、判断に迷う場合は専門家や自治体の窓口に相談してください。
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」、e-Gov法令検索 老人福祉法20条の5、同29条、介護保険法8条、老人福祉法施行規則(いずれも2026年8月13日確認)。
まとめ
- 「老人ホーム」は根拠法の違う施設の総称。特養・老健・介護医療院は介護保険法上の介護保険施設で、有料老人ホームは老人福祉法29条1項、サービス付き高齢者向け住宅は高齢者住まい法5条が根拠
- 行政の関与は3段階。老健・介護医療院は都道府県知事の許可、有料老人ホームは届出、サ高住は登録を受けることができる(登録は5年ごとに更新)
- サ高住と有料老人ホームは二択ではない。高齢者住まい法5条は登録の対象を「高齢者向けの賃貸住宅又は(略)有料老人ホーム」としている
- 介護保険が1〜3割にするのは介護サービス費だけ。施設利用では居住費・食費・日常生活費が別に必要
- 介護保険施設の食費・居住費には基準費用額がある。食費1日1,445円、ユニット型個室の居住費1日2,066円(2026年8月13日時点の厚生労働省の公表値)
- 従来型個室は特養1,231円・老健や介護医療院1,728円と額が違う。同じ呼び名で揃えて比べない
- 所得と預貯金が一定以下なら負担限度額まで下がるが、市区町村への申請(負担限度額認定)が要る
- 高額介護サービス費の上限額の計算には、食費・居住費等一部は入らない
- 有料老人ホームの前払金には、権利金の受領禁止(29条8項)、保全措置(29条9項)、入居後三月以内の解除・死亡による終了時の返還契約(29条10項・施行規則21条)という縛りがある。「90日」ではなく省令の文言は「三月」
- 施設情報は、都道府県が公表する有料老人ホーム情報(29条12項)と厚生労働省の介護サービス情報公表システムから探せる
出典:厚生労働省 介護サービス情報公表システム「サービスにかかる利用料」、e-Gov法令検索 老人福祉法29条、老人福祉法施行規則、介護保険法8条、高齢者の居住の安定確保に関する法律5条(いずれも2026年8月13日確認)。
費用の全体像がつかめたら、次は手続きの順番です。終活のなかで何から手を付けるかは終活でやることを緊急度別に整理した優先順位マップにまとめています。
本記事は一般的な制度と手続の流れをまとめたものです。個別の判断は弁護士・司法書士・税理士など各分野の専門家、または各自治体の担当窓口にご確認ください。施設選びと介護の必要度については、地域包括支援センター・担当のケアマネジャー・市区町村の介護保険担当窓口へご相談ください。