実家を空き家のまま持つ費用と管理|固定資産税・火災保険の注意点
実家を「そのまま持つ」と決めたあと、実際に何をいくら払い続けることになるのかは、意外と整理されていません。実家じまいの4つの選択肢と決める順番では、売る・貸す・解体する・そのまま持つを比較しましたが、「そのまま持つ」を選んだあとの実務までは踏み込んでいませんでした。この記事では、実家を空き家のまま持ち続けるときにかかる費用と、必要になる管理を、条文と公的統計から整理します。

実家を空き家のまま持つとは、何をし続けることですか?
実家を空き家のまま持つとは、居住者がいない状態で建物と土地の名義を維持し、固定資産税や管理の費用と手間を払い続けることです。売る・貸す・解体するといった判断を先送りする選択でもあります。
続く費用は大きく2つに分かれます。毎年かかる固定資産税と、建物を維持するための管理費用(見回り・除草・修繕など)です。加えて、契約している火災保険の扱いも、居住実態がなくなった時点で一度確認しておく必要があります。それぞれ順番に見ていきます。
固定資産税はどう計算されますか?
住宅用地には、固定資産税の課税標準額を軽くする特例があります。一般住宅用地は価格の3分の1、200㎡以下の小規模住宅用地は6分の1に軽減されます(地方税法349条の3の2)。空き家であるという理由だけでは、この特例はすぐには外れません。
出典:地方税法349条の3の2(e-Gov法令検索)(2026年8月10日確認)
「特定空家に指定されると固定資産税が6倍になる」は本当ですか?
正確ではありません。特例が外れる引き金は「指定」ではなく、空家等対策の推進に関する特別措置法(空家法)に基づく**「勧告」**です。地方税法349条の3の2第1項の括弧書きは、管理不全空家等について空家法13条2項の勧告を受けた土地、特定空家等について同法22条2項の勧告を受けた土地を、住宅用地の定義から除外すると定めています。
勧告を受けて特例が外れると、小規模住宅用地(200㎡以下の部分)の課税標準額は6分の1から3分の1に戻るため、その部分だけを見れば最大で6倍になり得ます。ただし、200㎡を超える部分はもともと3分の1のままで変わらず、また課税標準額と実際の税額(課税標準額に税率をかけたもの)は別のものです。「指定されたら一律6倍になる」という説明は、この2点がずれています。
出典:地方税法349条の3の2(e-Gov法令検索)(2026年8月10日確認)
管理不全空家等とはどんな制度ですか?
管理不全空家等とは、放置すれば特定空家等に該当することとなるおそれがある状態の空家等を指し、2023年12月13日に施行された新しい枠組みです(空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律・令和5年法律第50号、公布は令和5年6月14日)。2023年12月より前に書かれた解説の多くは、この管理不全空家等の枠組みを扱っていない点に注意してください。
国土交通省は、使用目的のない空家が1998年の182万戸から2018年には349万戸へ増え、2030年には470万戸まで増える見込みだとして、この改正の背景を説明しています。改正の柱は「放置すれば特定空家になるおそれのある空家(管理不全空家)に対し、管理指針に即した措置を、市区町村長から指導・勧告」し、「勧告を受けた管理不全空家は、固定資産税の住宅用地特例(1/6等に減額)を解除」することです。
手続きは2段階です。まず空家法13条1項に基づく指導、改善されなければ同条2項に基づく勧告(この時点で特例が外れます)。国は政策目標として、施行後5年間で管理不全空家・特定空家をあわせて15万物件について管理や除却等を行うことを掲げています。
出典:国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」概要、e-Gov法令検索 空家法13条(いずれも2026年8月10日確認)

特定空家等とはどう違いますか?
特定空家等とは、放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれがある状態、著しく衛生上有害となるおそれがある状態、著しく景観を損なっている状態、その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態にあると認められる空家等です(空家法2条2項)。管理不全空家等より状態が進んだ段階を指します。
手続きは4段階です。①助言・指導(22条1項)②勧告(22条2項、ここで住宅用地特例が外れます)③命令(22条3項、勧告に従わない場合)④行政代執行(22条9項、命令に従わない場合)。③の前には通知書の交付・意見書提出の機会があり、5日以内に請求すれば公開の意見聴取も受けられます。
| 管理不全空家等 | 特定空家等 | |
|---|---|---|
| 根拠条文 | 空家法13条 | 空家法22条 |
| 対象の状態 | 放置すれば特定空家等になるおそれ | すでに著しく危険・有害・景観を損なう状態 |
| 手続きの段階数 | 2段階(指導→勧告) | 4段階(助言・指導→勧告→命令→代執行) |
| 住宅用地特例が外れる時点 | 勧告時 | 勧告時 |
| 枠組みの開始 | 2023年12月13日施行 | 従来からの制度 |
出典:e-Gov法令検索 空家法2条、e-Gov法令検索 空家法22条(いずれも2026年8月10日確認)
管理不全空家等と特定空家等は、どんな状態を指しますか?
国土交通省が示す参考基準には、同じ「悪影響」でも管理不全空家等の段階と特定空家等の段階とで状態の重さが違う例が挙がっています。
| 悪影響 | 特定空家等の状態(例) | 管理不全空家等の状態(例) |
|---|---|---|
| 建築物の倒壊 | 倒壊のおそれがあるほどの著しい傾斜等 | 構造部材の破損、腐朽、蟻害、腐食等 |
| 部材等の飛散 | 屋根ふき材・外装材等の剥落又は脱落等 | 屋根ふき材・外装材等の破損又は支持部材の破損・腐食等 |
| 汚水等による健康被害 | 排水設備からの汚水等の流出等 | 排水設備の破損等 |
| 景観悪化 | 屋根ふき材・外装材等の著しい色褪せ・破損・汚損等 | 補修等がなされておらず、色褪せ・破損・汚損が認められる状態 |
国土交通省は同資料で「以下に掲げる放置した場合の悪影響及び状態の例によらない場合も、個別の事案に応じて適切に判断していく必要がある」とも述べています。この表はあくまで例であり、自分の実家がどちらに当たるかを本記事で判定することはできません。判断は自治体の空家対策担当課が行います。
出典:国土交通省「管理指針、管理不全空家の参考基準」(2026年8月10日確認)
全国にはどのくらい空き家がありますか?
総務省統計局によると、2023年10月1日時点の全国の空き家数は900万2千戸(空き家率13.8%、いずれも過去最多・過去最高)です。同調査は「空き家数の推移をみると、これまで一貫して増加が続いており、1993年から2023年までの30年間で約2倍となっている」としています。ただし、この900万2千戸には賃貸募集中のアパートや別荘のような二次的住宅も含まれています。
読者の実家に近いのは、賃貸用・売却用・二次的住宅を除いた385万6千戸(総住宅数の5.9%)のほうです。900万戸という数字だけを見て「空き家はどれも実家じまいの対象と同じ規模」と考えると、実際の規模を見誤ります。なお、総務省が令和6年4月30日に公表した速報値は「900万戸」という概数で、本記事で示した900万2千戸は同年9月25日公表の確報値です。速報と確報を混同しないよう注意してください。
出典:総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果」(令和6年9月25日公表、2026年8月10日確認)
火災保険はどう確認すればいいですか?
損害保険料率算出機構は、火災保険の対象となる建物を住宅物件・一般物件・工場物件・倉庫物件の4区分に分けており、**住宅物件を「住居としてのみ使用する建物」**と定義しています。
実家が空き家になり居住実態がなくなった場合に、この区分がどう扱われるかは契約している保険会社ごとに異なるため、この記事では断定しません。確認したいのは、①居住実態がない期間も同じ契約を継続できるか、②区分や補償内容の見直しが必要か、の2点です。契約している保険会社に直接問い合わせて確認してください。
出典:損害保険料率算出機構「火災保険参考純率」(2026年8月10日確認)
空き家の管理サービスにはどんな費用がかかりますか?
管理サービスの料金はセンターや自治体ごとに別料金のため、全国一律の相場は示せません。公的な例として、埼玉県宮代町シルバー人材センターの料金を紹介します。
| サービス | 料金 | 備考 |
|---|---|---|
| 見回り(年6回) | 18,180円 | チェックリストで確認し写真送付で報告 |
| 除草 | 1日あたり8,344円 | 事務費12%+材料費別途 |
| 樹木の伐採・剪定・小修繕等 | 1日あたり10,010円 | 同上 |
この料金は令和8年4月1日から適用されているもので、実際の契約料金は現場確認後の見積書によって変わります。他の自治体・センターの料金をこの金額に当てはめないでください。 実家がある自治体のシルバー人材センターや空き家管理サービスへ、個別に見積もりを確認する必要があります。
出典:埼玉県宮代町「空き家の管理は、宮代町シルバー人材センターにご相談ください」(2026年8月10日確認)
民間の空き家管理業者の料金は、本記事が確認できた公的な一次情報の範囲には含まれていません。見積もりを取るときは、見回りの頻度(月1回か年数回か)、報告方法(写真の有無)、除草や剪定を別料金にするかを、複数社で同じ条件にそろえて比べると、金額の違いが料金設定の差なのか作業範囲の差なのか判断しやすくなります。
そのまま持つ場合に、先に確認しておきたいことは何ですか?
そのまま持つと決めた場合も、決めかねている場合も、次の4点は早めに確認しておくと、あとで慌てずに済みます。
- 固定資産税の納税通知書で住宅用地の特例が適用されているか確認する。課税明細書に「住宅用地」の記載があるかを見ます。特例の適用区分(一般住宅用地か小規模住宅用地か)と面積も、あわせて確認しておくと、将来の税額の変化を見積もりやすくなります。
- 自治体の空家対策担当課に、指導や勧告を受けていないか確認する。管理不全空家等・特定空家等どちらの手続きも、窓口は市区町村です。まだ指導の段階であれば、修繕や管理体制を整えることで勧告を避けられる余地があります。
- 契約している火災保険会社に、居住実態がない場合の扱いを確認する。区分や補償内容の見直しが必要かどうかは保険会社ごとに異なります。契約更新のタイミングだけでなく、居住者がいなくなった時点で早めに問い合わせておくと行き違いを防げます。
- 名義と相続登記の状況を確認する。相続した実家が亡くなった人の名義のままだと、指導や勧告の宛先も宙に浮きます。相続登記の期限は相続手続きの期限一覧で確認できます。
- 見回りの頻度と担当者を決めておく。遠方に住んでいて頻繁に通えない場合は、シルバー人材センターや管理業者に定期的な見回りを依頼する方法もあります。放置する期間が長くなるほど、管理不全空家等・特定空家等の手続きに進むリスクが高まります。
相談先はどこに分ければいいですか?
固定資産税の特例や納税通知の内容は市区町村の税務課(資産税課)、指導・勧告など空家法の手続きは自治体の空家対策担当課、保険の扱いは契約している保険会社、名義や相続登記は法務局・司法書士が窓口になります。
実家をどうするか自体をまだ決めていない場合は、実家じまいの4つの選択肢と決める順番で、売る・貸す・解体する・そのまま持つを費用と手間で比較できます。お墓の扱いも同時に検討している場合は、墓じまいの費用相場と自治体補助金の探し方に「しない・保留する」という選択肢の考え方も整理しています。全体の順番に迷ったら、終活でやることを緊急度別に整理した優先順位マップへ戻ってください。
本記事は一般的な制度と手続きの流れをまとめたものです。個別の判断は税理士・弁護士・司法書士など各分野の専門家、または実家がある市区町村の窓口にご相談ください。
よくある質問
実家を空き家のまま持つと固定資産税は必ず上がりますか? 上がりません。住宅用地の特例が外れるまでは、これまでと同じ課税標準額のままです。特例が外れる引き金は空家法に基づく「勧告」であり、単に空き家であることや空き家として認識されただけでは上がりません(地方税法349条の3の2)。
「特定空家に指定されたら固定資産税が6倍になる」は本当ですか? 正確ではありません。特例が外れるのは指定ではなく勧告を受けた時点です。小規模住宅用地(200㎡以下)の部分は最大で6倍になり得ますが、200㎡を超える部分はもともと3分の1のため、一律に6倍になるわけではありません。
管理不全空家等と特定空家等はどう違いますか? 管理不全空家等は「放置すれば特定空家等になるおそれ」がある段階(空家法13条)で、手続きは指導→勧告の2段階です。特定空家等はすでに著しく危険・有害・景観を損なう状態(同2条2項)で、手続きは助言・指導→勧告→命令→代執行の4段階です。管理不全空家等は2023年12月13日に施行された新しい枠組みです。
空き家のまま持つと火災保険料は上がりますか? 一次情報からは断定できません。損害保険料率算出機構は「住宅物件」を「住居としてのみ使用する建物」と定義していますが、居住実態がなくなった場合の扱いは保険会社ごとに異なるため、契約している保険会社に確認する必要があります。
空き家の管理サービスの費用はどれくらいですか? センターや自治体ごとに料金が異なるため、一律の相場は示せません。例えば埼玉県宮代町シルバー人材センターでは、年6回の見回りが18,180円(令和8年4月1日から適用)とされていますが、実家がある地域のセンターや業者へ個別に見積もりを確認する必要があります。
出典:地方税法349条の3の2(e-Gov法令検索)、埼玉県宮代町「空き家の管理は、宮代町シルバー人材センターにご相談ください」(いずれも2026年8月10日確認)
まとめ
- 実家を空き家のまま持つと、固定資産税と管理費用(見回り・除草など)が続く
- 固定資産税の住宅用地特例が外れる引き金は「指定」ではなく空家法の「勧告」
- 特例が外れると小規模住宅用地の部分は最大で6倍になり得るが、200㎡を超える部分はもともと3分の1
- 管理不全空家等は2023年12月13日施行の新しい枠組みで、手続きは指導→勧告の2段階
- 特定空家等は助言・指導→勧告→命令→代執行の4段階
- 空き家900万2千戸のうち、実家じまいの対象に近いのは賃貸・売却用等を除いた385万6千戸
- 火災保険の扱いは保険会社ごとに異なるため、契約先へ個別に確認する
- 管理サービスの料金は自治体・センターごとに別料金で、一律の相場はない